井頭記念講演(5)  <前へ 最初へ>

 

十九 最近の国立大学
 さて、話を替えて最近の国立大学の動きについて簡単に述べます。ご承知のように、平成十六年度から全ての国立大学は国立大学法人化されます。法人化により何が変わるかといいますと、これまで国立大学であまり行っていなかったことですが、各大学は教育研究の理念を謳い、中期六年間について、理念に対する目標を設定し、目標を達成するための計画を立てなければなりません。そして、中期の最後に、自己点検・評価をもとに、外部評価を受けなければなりません。評価結果が良ければ、次の中期以降の事業計画も認められます。しかし、評価結果が悪ければ、事業計画の変更を求められ、最悪の場合は他大学との合併・統合の憂き目にあいます。
 このため、各大学で立てた計画を予定通りに実行するため、機能的・戦略的マネジメントを行うための幾つかの組織を学長の下に置くことになります。これまでは、部局(法学部、工学部、など)の独立を重んじ、部局からの代表者で構成される大学全体の各種委員会で全てのことを合議制で決めていました。
 教育に関しましては、各大学は育成する人材像を明確にし、大学卒業時あるいは大学院修了時における学生の能力を保証する必要があります。したがって学生に関しては、これまでの入学試験による入口管理から能力保証の出口管理に移行します。そうしますと、大学入試方法も変わり、大学を卒業する時に能力保証ができる素材の学生を合格させる入試方法になります。また、大学での成績評価方法も現在よりも厳正・適切なものに変わります。
 教育と研究に共通したこととしては、各大学はグローバル時代に必要な国際競争力を高めなければなりません。その結果、外国人教員と留学生の比率が増え、英語で開講する授業の比率も増えます。また、日本から海外に留学するケースも増えます。留学することにより修学年度が正規よりも長くなることを避ける手だては大学で考えますが、基本的には、出口管理においては数年の年齢差は全く関係ないのです。優秀な卒業生を社会は求め、それに大学は答えなけねばならないのです。
 前に述べましたように、大学の個性を発揮できない場合は、合併・統合の憂き目にあうのです。私が朝日高時代、どの先生のお言葉か覚えていませんが、「どの大学に進学するかは自分の選択でよいが、自分が生きている間は潰れない大学を選んだほうが良いと思う。」との訓辞を頂きました。これからは当にその時代であり、高校生の大学の選択はある意味では難しくなっています。

二十 英語のススメ
 いつの時代においても、コミュニケーションは大事です。グローバル時代のコミュニケーション言語は、少なくとも現在では英語が基本です。英語を十分に操れて、その他に自分の活躍分野に応じた言語が使えると理想的です。
 外国語は母国語を越えることはできません。日本人の英語を聞いていると、上手な人ほどその人の日本語と同じ話し方をします。したがって、国語も重要です。社会に出ると、企画書や提案書などを魅力的かつ論理的に書く必要があります。このためにも、国語は重要です。
 学校での英語授業は「読む」と「書く」が中心だと思いますので、自分では「聞く」と「話す」を中心に勉強してください。それも記憶力の良い早い時期に集中的に行ってください。英語圏に留学するのが一番ですが、現在では多種類の良い教材や英語学校がありますので、留学しなくても基本的な英語は身につけることができます。自分に適した教材等を選び、また、TOEFL、TOEIC、英検などを積極的に活用して自分の英語レベルを確かめて勉強してください。
 前に述べましたように、私は中学時代の英語の勉強をおろそかにしました。また、研究者になってからも留学する機会に恵まれませんでした。そのため、私は今でも英語で苦労をしています。グローバル時代に活躍する皆さんには、そんな苦労はしないでほしいと思っています。

二十一 諸君に期待すること
 人間力をつけて、各分野で大きく育ってください。人間力とは、知識や技術などだけではなく、倫理観なども含めた総合的な個人の力のことです。また、皆が理系に進んでも困りますし、皆が文系に進んでも困ります。いろいろな分野に進んで活躍することを大いに期待しています。